轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
自身が抑えきれないで苦しんでいるような、つきつめた情熱が感じられるので、彼は黙って云うままになるよりしかたがなかった。――明るい街へ出ると二人は離れた。駕籠屋の角を曲るときには、おつるは顔をそむけて走りぬけた。暗い急な坂にかかると、おつるはしばしば足を停め、彼に抱きつき、頬ずりをしたり、激しく唇を合わせたりした。
「忘れないで、ね」――と、おつるは熱い息で囁いた、「いつまでも、いつまでもよ、忘れないでちょうだい」
「ああ」と彼は頷き、おつるに頬ずりをして云った、「忘れやあしないよ」
坂を登りつめ、裏木戸の前へ来た。
「角屋さんの控え家なのね」おつるが木戸を見て云った、「やっぱりそうだったわ、――絵をお描きになるんでしょ」
「知っていたのか」
「初めての晩、小花姐さんが芸事のお師匠さんだって云ったでしょ、あのときあたし絵をお描きになるんじゃないかって思いました」
「そんなようなことを云ったんだな」
「いいえ感じなんです、ここは景色がいいので、よく絵を描く先生方がいらっしゃいますわ、あなたはそういう方たちとは似てはいらっしゃらないけれど、なんとなくそういう感じがしたんです」