轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
「貴女にはお世話になった、おけいさん」と彼は盃をさし出した、「お別れに一つ受けてくれないか」
おけいは首を振った。
「いいえ」とおけいは云った、「それはあたしは頂けません、その盃を受取る人はほかにいますわ」
「おけいさんは受けてくれないんだな」
「先生は御存じないのよ」おけいは静かに云った、「その盃はおつるさんにあげなければいけませんわ」
栄三郎は、どきっとして眼をそばめた。
「競作がやめになったのはおつるさんのためですわ」とおけいは続けた、「あの人が孝之介さまの云うことをきいて、落籍されることを承知したために中止になったんですわ」
「おつるが石川に」と栄三郎は声をあげた、「石川孝之介に、――おつるが落籍されるって」
「絵をお描きになるくらいだから、もっと気もよくおまわりになると思ったのに、先生は案外ぼんやりなところがおありになるんですのね」
「話してくれ、――それはいったいどういうことなんだ」
「あの孝之介は、――呼びすてでいいわあんな人、――あの人はまえからおつるさんが好きで」とおけいは云った、「自分は奥さんがあるのに、お妾になれっていつもしつこく口説いていたんです、おつるさんはてんで相手にならなかったんですけれど、先生といっしょに樋の山へいったとき、孝之介の取巻の侍たちがみつけて告げ口をしたんでしょう」