轻松读懂日语经典作品
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おうぎの
扇野
山本 周五郎
「面白倶楽部」大日本雄辯會講談社、1954(昭和29)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,727 字 · 67 页
栄三郎の眼から涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。彼はもういちど「ばかなやつだ」と云いながら、これまでのおつるの腑におちない言葉や動作や、びっくりするほど衝動的な態度などを思いだし、その哀れさに胸が詰って、どうにも涙を抑えることができなかった。
「そんなばかなやつとは知らなかった」こう云って栄三郎は立とうとした、「私はこれからいって来ます」
「いいえ大丈夫、時間はたっぷりありますわ」おけいは微笑しながら云った、「――この話は先生には云わない、どんなことがあっても先生には話さないっていう約束でしたの、でもあたし決心したことがあるから申上げたんです」
「断わっておくが私はおつるを伴れてゆきますよ」
「もちろんですとも、あたしだってそう思ったから申上げたんですわ」おけいは袂から袱紗包を出してそこへ置いた、「今夜の船でいっしょにゆけるように、必要な切手やなにかみんなこの中に入っていますわ」
栄三郎は眼をみはっておけいを見た。
「どうして、――」と彼は吃った、「どうしてまた貴女はこんなことまで」
「お二人が好きだからです」
おけいはこう云って明るく笑った。すがすがしいほど明るい笑いだったが、眼は涙でいっぱいだった。