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とびら

扉

小川 未明

「早稲田文學」1910(明治43)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,143 字 · 17 页

青空文庫

……

Bは、白い床の上に輾転として煩悶した。

しばらく、Bは疲れて眠った。忽ち、怖しい夢を見て目醒めた。

眼の前にKが立っていた。赤いネクタイが見えた。黒い洋服が夜の色よりはっきりとした。痩せた、丈の高い恰好が、どうしてもBには魔術家としか思われなかった。

頭髪が延びている。眼は窪んで底光りを放っている。

「もう一度君に厄介をかけようと思ってやって来た。」と笑いもせず、Kは冷やかにいった。Bは黙っていた。

「もう一度君はかかってくれまいか?」

Bは、この言葉を聞いて身の毛が慄った。

外では風が出たと見えて、硝子戸に当る音がした。

「もう一度かかってくれまいか?」

この無口のKが、こう頼むことはないのだ。

Bは、白い床の上に坐ったまま身動きをしなかった。

「もう、お前の秘密はみんな知っているのだ。」とKはいった。

それでも、Bは黙っていた。

「お前が厭だといっても私は君をかけることが出来る。」と冷やかにKが笑った。

Bは、先刻からKの書いていたことは、やはり自分の身の上のことだと分った。

「昨日私は貴君に何か話しましたか?」

とBは堪えきれず言った。

Kは冷やかに穴のあくほどBの顔をじっと見て、笑っていた。