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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

「どんな姿。宿のドテラ」

「いえ、洋服どした」

「さては、カバンをぶらさげて!」

木介、カバンの執念、でかい声で、思わず、わめく。老婆はビックリして、

「いえ、カバンは置いてかはりましたんや。散歩どすよってなア」

「フーム。奇々怪々」

二人はガッカリして外へでた。

「まア、仕方がない。ひとつ、支局へ寄ってみようや」

支局へ立ち寄ると、夕方五時ごろ本社から金口宛ての電話があって、午後十時四十七分着急行で、暁葉子と岩矢天狗が京都へ着くはずだから、その時間に京都駅へ行ってみろ、と、指令してある。

ところが、彼らは失敗した。まッすぐ支局へ行けばよかったものを、新京極をブラついて、串カツで一杯ひっかけたりしたから、支局へ現れたのが、十一時五分だ。

アッと叫んだが、後の祭り。それでも、汽車がおくれて着くかも知れないと、哀れな神だのみ、出かけようとすると、

「そう、そう。あなた方の代りに、別の迎えが行ってますよ」

「誰が?」

「ちょうど、五時半ごろでしたかネ。上野光子女史が現れて、大鹿と懇談したけれど、本社が金を出し渋るから、契約がまとまらない、と云うのですね。クサリきっていましたよ。