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ピッチャーさつじんじけん

投手殺人事件

坂口 安吾

「講談倶楽部 第二巻第五号」1950(昭和25)年4月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,243 字 · 57 页

青空文庫

むろん無名の人物からです。さッき奇声を発したのが、尾行の記者ですよ」

「ハハア。それは妙ですなア。私の出発時刻をね。誰だろう。暁葉子は知っていたかも知れんが、そんなことをする筈はない」

「あなたの関西旅行の用向きはもう終ったのですか」

「その通りです。妙なことで、大鹿との契約が早くすんだので、京都へ泊らなくとも良かったのですが、旅館の予約をとっておきましたから、ゆっくり休憩のツモリでな。この十日間に、三度も関西を往復したのですから」

「京都では、いつも、あの宿ですか」

「いいえ。今度の三回だけです。私は、きまった宿にはメッタに泊りません。それに、京都よりも、大阪、神戸、南海沿線などの方に用向きが多いのですよ」

「宿へついてから、散歩されたそうですが」

「そうです。ミヤゲモノを買いにでました。そんなことは殆どしないタチですし、するヒマもないのですが、この日は久しぶりでユックリする気持がうごいて、ミヤゲなども買う気持になったんですな。最後に、こんなものを買いました。京紅、匂袋、女物の扇子、みんな女のミヤゲです。アハハ」

煙山はトランクをあけて、ミヤゲの品々を見せた。