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そうわ

挿話

徳田 秋声

「中央公論」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页

青空文庫

「お芳さんの旦那ってどんな人なの」

「青物の問屋。なかなか堅いんですの。旧は夜店で果物なんか売っていたんですけれど、今じゃどうして問屋さんのぱりぱりです。倶楽部へも入って、骨董なんかもぽつぽつ買っていますわ。それで芳ちゃんが落籍される時なんか、御母さんはああいう人ですから、いくらも貰わなかったんですよ。いいわいねといったいつもの調子で、だけれど、いい人なの。なかなか解っているんです」

「じゃまあ芳ちゃんは仕合せだね」

「でも旦那は躯が弱いから」

道太は掃除の邪魔をしないように、やがて裏梯子をおりて、また茶の室の方へ出てきた。ちょうどおひろが高脚のお膳を出して、一人で御飯を食べているところで、これでよく生命が続くと思うほど、一と嘗めほどのお菜に茄子の漬物などで、しょんぼり食べていた。店の女たちも起きだして、掃除をしていた。

「独りで食べてうまいかね」

「わたい三度の御飯は、どんなことがあっても欠かさずきちんきちん食べる方なの。御飯も三膳ずつに極めているの」

おひろは痩せた小さい体の割りには、声がりんりんして深みがあった。それに後で気のついたことだが、四人の姉妹のうち一番頭脳のいいのもこの子であった。