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そうわ

挿話

徳田 秋声

「中央公論」1925(大正14)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,544 字 · 53 页

青空文庫

道太の食物が運ばれた時分には、おひろは店の間へ出て、独り隅の方で、トランプの数合せに没頭していた。お絹は手炙りに煙草火をいけて、白檀を燻べながら、奥の室の庭向きのところへ座蒲団を直して、

「ここへ来ておあがんなさい」と言うので、道太は長火鉢の傍を離れて、そこへ行って坐った。

「今日は辰之助を呼んで鶴来へでも遊びに行こうじゃないか」道太は言いだした。

「鶴来なら鮎もおいしいし、岩魚や鮴料理もありますよ」

「それからあの奥に吉野谷という仙境があるだろう。子供の時分遠足に行ったことがあるんで、一度行ってみようと思いながら、いつもどこへも行かずに帰ってしまうんだ。まだ山代さえ知らないくらいだ」

それから遊び場所の選択や、交通の便なぞについて話しているうちに時が移っていった。山嵐のような風がにわかに出てきて、離れの二階の簾を時々捲きあげていたが、それもひとしきりであった。お絹たちは京阪地方へも、たいてい遊びに行っていて、名所や宿屋や劇場のことなぞも知っていた。最近では去年大阪にいる子息のところへしばらく行っていたので、その嫁の姻戚でまた主人筋になっている人につれられて、方々連れて歩かれた。