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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
岡本綺堂『文藝別冊[総特集]岡本綺堂』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の怪、お住の霊、河童小僧、明治時代の湯屋、父の怪談、山椒魚、子供役者の死、黄八丈の小袖、勘平の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 页
留桶を平生使用している客は、それに対して五十銭、一円、或は二三円を寄附するのが習で、湯屋の方では「金何十銭、何某様」と書いた紙を一々貼り出すことになっているから、客は自分の面目上、忌でも相当の寄附をしなければならない。悪い習慣だと批難する人もあるが、留桶を新調するのは番頭の負担で、湯屋の主人は一切関係しない事になっているのであるから、番頭も寄附金を募らなければ遣切れないという理窟にもなる。花柳界に近い場所や、下町の盛り場にある湯屋では、浴客にみな相応の見栄があるから、こういう時には案外の寄附金が集まって、番頭は留桶新調の実費以外に相当の収入があったという。
留桶新調のほかに、留桶を毎日使用している客は、盆暮の二季に幾らかの祝儀を番頭に遣るのが習であった。そんなわけで、辛抱人の番頭は金を溜めることが出来た。まだ其のほかに貰い湯というものがあった。正月と盆の十六日は番頭の貰い湯と称して、焚物の実費だけを主人に支払い、入浴料はすべて自分の所得となるので、当日は番頭自身が番台に坐りやはり白木の三宝を控えて、例の「おひねり」の湯銭を受取るのであった。この日も浴客は普通以上の湯銭を包んで行き番頭も一々丁寧に礼を云った。