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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
岡本綺堂『文藝別冊[総特集]岡本綺堂』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の怪、お住の霊、河童小僧、明治時代の湯屋、父の怪談、山椒魚、子供役者の死、黄八丈の小袖、勘平の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 页
子供役者の死
ペテロは三たびキリストを知らずといえり。――これはそんなむずかしい話ではありませんと、ある人は語った。
なんでも慶応の初年だと聞いていました。甲州のなんとかいう町へ、江戸の子供役者の一座が乗り込んだのです。十七八をかしらに十五六から十二三ぐらいの子供ばかりで、勿論たいした役者でもなかったのですが、その頃のことですから、ともかくもお江戸の役者が来たというので、初日のあく前から大変な人気で、遠い山奥からも見物に出て来るという勢いで、芝居は毎日売り切れだったそうです。二日替りの狂言が五度も替ったというのですから、その景気も思いやられます。
その一座のうちに六三郎という女形がありました。中村というのか、尾上というのか、市川というのか忘れてしまいましたが、年は十六、娘形専門の綺麗な児で、忠臣蔵の小浪や三代記の時姫などを勤めていたのですが、なにしろ舞台顔もよし、小手も利くもんですから、これがまた大変の人気役者で、女客の七分はこの六三郎を見に来るというような有様でしたが、そのうちでも特別に六三郎を贔屓にしたのは、お初という女で……。年齢は二十五六だったそうですが、色の浅黒い、細おもての小粋な女で、今こそこんな田舎に引っ込んでいますが、生まれはやはり江戸で、清元などをよく語ったそうです。