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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
岡本綺堂『文藝別冊[総特集]岡本綺堂』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の怪、お住の霊、河童小僧、明治時代の湯屋、父の怪談、山椒魚、子供役者の死、黄八丈の小袖、勘平の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 页
介抱されて息をふき返したが、かれは自分の臆病ばかりでない、その女は確かにのっぺらぼうであったと主張していた。すべてが父の見たものと同一であったのから考えると、それは父の僻眼でなく、不思議な人相をもった女が田町から高輪辺を往来していたのは事実であるらしかった。
「唯それだけならば、まだ不思議とはいえないかも知れないが、そのあとにこういう話がある。」と、父は言った。
その翌朝、品川の海岸に女の死体が浮きあがった。女は二つばかりの女の児を背負っていた。女の児は手に盆燈籠を持っていた。燈籠の紙は波に洗い去られて、ほとんど骨ばかりになっていた。それだけを聞くと、すぐにかののっぺらぼうの女を連想するのであるが、その死体の女は人並に眼も鼻も口も揃っていた。なんでも芝口辺の鍛冶屋の女房であるとかいうことであった。
そば屋の出前持や、わたしの父や、それらの人々の眼に映ったのっぺらぼうの女と、その水死の女とは、同一人か別人か、背負っていた子供が同じように盆燈籠をさげていたというのはよく似ている。勿論、七月のことであるから、盆燈籠を持っている子供は珍らしくないかも知れない。