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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
岡本綺堂『文藝別冊[総特集]岡本綺堂』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の怪、お住の霊、河童小僧、明治時代の湯屋、父の怪談、山椒魚、子供役者の死、黄八丈の小袖、勘平の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 页
忠七は自棄になって放蕩を始めた。お熊は嫉妬やら愚痴やらで毎日泣いた。お常もいよいよ焦れに焦れた末に、浅い女の胸の底からこんな苦しい智慧を絞り出した。
「お菊に心中を仕掛けさせ、それを科に又四郎を追い出そう。」
その相談を第一に受けたのは、お気に入りのお久であった。彼女はすぐに同意した。
「そうですね。お菊どんならば色は白し、眼鼻立もまんざらで無し、あれならば若旦那の相手だと云っても世間で承知しましょう。」
所謂まんざらで無い容貌の持主に生れて、下女には惜いと皆なから眼をつけられていたお菊は不運であった。彼女はお内儀さんの前に呼び付けられて、お久の口を通しておそろしい役目を云い付けられた。若旦那の熟寝ているところへ忍んで行って、剃刀でその喉へ少しばかりの傷をつけてくれ。決して殺すには及ばない。唯ほんの微傷でも付けてくれれば可い。そうして、お前も喉を突く真似をしろ。そこへ誰かが飛び込んで取鎮めるから案じることはない。何故そんなことをしたかと調べられたら、お前は何にも云わずに泣いていれば可い。唯それだけのことだとお久は云った。
「わたくしが若旦那様に傷を付ければ、どうなるのでございます。