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いけぶくろのかい
文藝別冊[総特集]岡本綺堂
岡本 綺堂
岡本綺堂『文藝別冊[総特集]岡本綺堂』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の怪、お住の霊、河童小僧、明治時代の湯屋、父の怪談、山椒魚、子供役者の死、黄八丈の小袖、勘平の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 72,671 字 · 149 页
その蒼ざめた顔その悲しそうな声、今も眼に着いて耳について、思い出しても悚然とします――と声顫わせて物語る。
兄は武士、斯くと聞くより冷笑って、お前も武士の女房でないか、幽霊の変化のと云う物が斯世にあろうと思うか、馬鹿も好加減にしろと頭ごなしに叱り付けたが妹は中々承知せず、何うあっても彼の邸には居られませぬと思い入ったる気色に、兄も殆ど持余して、これには何か仔細があろう、妹の片言ばかりでは証にならぬから、兎もかくも一応先方へ問合せた上、また分別もあろうと思案して、取あえず飯田町の邸へ出向いて主人の隼人に面会し、さて甚だ馬鹿馬鹿しい事で、実にお噺にもならぬ次第ではあるが、妹が斯く斯く申して是非とも離縁を申し込んで呉れと云う、ついては右に付き、何か御心当りの事でもござろうかと尋ねると、隼人も最初は笑い、後には眉を顰めて、それは近ごろ不思議な事を承わる、御存知の通り、拙者は当邸に生れて已に二十余年に相成るが、左様な事は見もせず聞も及ばぬ、しかし拙者の妻に限って毎夜左様な不思議を見るというも何分解し難き次第、兎も角も念の為に一応詮議致して見ましょうと云うので、年古く召仕っている下女下男などを呼出して、何か心当りの事でもないか、その以前に邸内で変死した者でもあるかと吟味したが、何れも顔を見合せるばかりで返答がない。