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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

だが、井伊兵部も本多平八郎も、この六十の老人を、いじめつけるのが目的ではない。主君に、自分たちの意中を達したいのだ。断然、野合的和睦を一蹴して欲しいのだ。信雄の単独講和は、徳川家の知ったことではないと、天下に宣言して欲しいのである。

「お取次ぎ下さい。御老人から」

「いや、そういう押しかけ沙汰は、穏やかでおざらぬ」

「この方どもは、なお甲冑をぬがず、戦場のつもりでおります。平常の礼とはちがう」

「いずれ、殿よりも、親しく御一同へ、おはなしもあろうほどに」

「仰せ出されては、間にあい申さぬ。仰せ出しのないうちこそと思うてわれらもヤキモキいたすのでござる。お取次ぎ下さらねばぜひもない。直接、御近習を通じて、お居間へ参じますぞ」

「いや今は、数正どのと、何やら、おはなし中でおざる。めったに、お居間を騒がせてはならぬ」

「なに、数正が?」

この際、石川数正が、ひとり主君の前に在るということもすでに、かれらに不安と不快を加えさせた。

そもそも小牧陣の時から、ややもすると、和議が伝えられ、和睦といえば、その裏面に数正があるように、かれらの先入観がいつも視ていた。丹羽長秀が調停にうごいた折も、もっぱらその折衝には数正が当っていたし、こんどの信雄の単独講和にも、何か、かれの策動が蔭にあったのではないか? ――というのがここの人々の