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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
てまえは、正林と申す富山の茶道の者でございまする。弥左衛門様にお目にかかって、ぜひぜひ、お知らせ申さなければならない大事がありまする」
正林は、まだ若い男だった。途中の兇変を怖れてか、顔に、膏薬を貼り、ボロ法衣を着て、旅の乞食僧に変装していた。
村井長頼の供先にいた小林弥左衛門は列を抜けて、正林の前へ来た。
「小林弥左衛門は自分だが、佐々どのの茶坊主とかいう其許が、何用あって、こんな所へ、自分たちを追い慕って来られたのか」
正林は、地上に、両手をつかえて、しげしげとその人を仰ぎ見ながら、
「……お見忘れでございましょうか。私は八年前に、七尾の御城下であなた様に救われた浪人者の父子のひとりでございます」
「はてな……?」
「まことに古いことですから、或いはお忘れかも知れませんが、危うい一命を助けられた私ども父子は、その御恩を今も忘れてはおりません」
「ああ思い出した。では、利家様がまだ七尾御在城の頃、城下端れの茶店で、飢餓のあまりに、盗みをした浪人者の父子が、大勢の中で仕置に遭っていたのを、助けてやったことがあるが、では、その時の」
「はい。その時の小せがれが私で、浪人していた父は、その後、魚津で病死いたしました。