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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
前田又左衛門利家は、近ごろ夜食の酒量も減らし、夫人からもあやしまれる程、就寝の時間も、きめていた。
――年のせいじゃよ。
と、かれは夫人に摂養を説いた。そして、
「武人の欠点は、とかく命を粗末にすることだよ。いさぎよいのと、粗末とはちがうからな」
と、近頃、何か、感じていることがあるらしい面持ちである。
かれの、近ごろの感懐というのは、つらつら殺伐な世のさまを眺めて、深く、こう考えさせられていることだった。
(――自分のいのちをすら粗雑に考えている人間が、何で、他人の生命などを愛せよう。――他人の生命を愛せないような人間が、また、どうして無数の生命の上に立って、政治をとり、世を立て直すなどという資格があろうか!)
かれは、これを自身の生活態度にも、自省してみて、
(……酒も薬ほどに)
と、改めたのである。
好きな酒にさえ、自律をもって、愛命の戒としたほどであるから、女色、飲食、あらゆることにも、かれの起居はちがっていた。
もっと、かれの心事の秘を、深くうかがえば、
(いのち長く、心ゆたかに、気長に時を待つのほか、秀吉、家康の上に出ることも、伍すことも、むずかしい)