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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
「余りにも、明らかです。……敗るること明らかなる上は、一日も早く、御降伏遊ばすのが、領民の大幸、お家の安全、また可惜、幾多の人命を失わずともすみますので、万難を冒して、その儀をおすすめに来た次第です」
元親も、暗愚な将ではない。忠兵衛の智略や武辺のたしなみは、老臣中第一の者とは、よく知りぬいている。
しかし、それにせよ、谷忠兵衛の諫言は、元親にとって、慮外なる暴言としか、聞えなかった。
「やい、待て。だまれ、だまりおろう、忠兵衛」
と、憤りを、満面にみなぎらし、時もあろうに、前線の守城を脱けて、のめのめと、自分に降伏をすすめに来たこの一老臣の言を、頭からどなりつけて、完膚なきまで、罵った。
「――見損ったわえ。年こそ寄れ、頼みある者とも思うたればこそ、一ノ宮の要害をあずけおいたに。……まだ籠城も半月か二十日とも経ぬうちに、弱音をふいて、これへ逃げ参ろうとは」
「殿。あいや、殿こそ、ちょっと、お待ち下さい」
「なんだ。何の文句やある」
「いつ、忠兵衛が、弱音をふきましたか。逃げ戻りましたか」
「たわけめが。たった今、元親に降参せいと、申したではないか。それを申しに、汝は、ここに来て居るではないか」