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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

林のごとき槍、鉄砲の流れ、馬じるし、小姓組の華やかな一群、黄母衣隊などの中に、一つ、にやにや笑っている赭ら顔があった。

「ア。猿どのだ!」

利家のうしろにいた甥の慶次郎が、頓狂な声をして指さした。

利家は、振り向いて、

「これっ」

と、その手をハタいた。

相距つこと、およそ三十間ばかりの所で、秀吉も馬を降り、手綱を、武者にあずけて、つかつかと、こっちへ歩いて来た。

すでに、利家の眼と、秀吉の眼とは、遠くから、笑み交わしつつ、北ノ庄陥落の一別以来を、万感のうちに、語り合っていた。

利家も、いそいで、数十歩、前へ出た。

「おう、又左」

と、手が伸びる。

「やあ。ついに、御遠路を」

と、掌と掌のぬくみを感じあう。

「――やって来たぞ。先年の約を履んで」

「お待ちしていました。利家の力が足りず、四国方面の御多忙もあるところへ、かくもお煩いをかけて、何とも、汗顔のいたりです」

「何の……よ」

秀吉はかぶりを振って、離した手で、利家の肩を打ち叩いた。

「何はなくとも、年に一度ぐらいは、会うて、旧情をあたためたいではないか。……ちょうどよい遊歴と思うて来たわさ」

「ははは。おそらく、あなたのことゆえ、きっと、それくらいなお気もちで参られるに違いないと、家内も申しておりました」