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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

――もし、そのクサビが打ってなかったら、秀吉と氏政とは、たちどころに聯盟を唱え、天正十三年にはもう徳川氏の名は東海から払拭されていたにちがいなかった。

北条氏政は、這般のかけひきに、誤算を持つような男ではない。

かれは、五十を出たばかりで、はやくも息子の氏直を族長にたて、身は小田原城において、事実の執政は握っているが、名は截流斎と称えて剃髪し、家祖早雲以来の野望はなかなか衰えてはいない。

(家康は食えぬ男よ。この氏政をも、あやつる気でおる)

北条家の隠然たる庇護が、ようやく家康の位置を大ならしめて来たと気づくと、氏政は、さっそく、浜松へたいして、手強い督促使をうるさくさし向けた。

(天正十年来、和睦と同時に、徳川どのは信州を斬り取り、北条家は上州を自由にするという協定であったのに、結果として、徳川家は、佐久郡その他の地方を加えられたにかかわらず、当家においては、上州沼田ノ城を、貰い受けるべきなのに、上田の真田安房守昌幸が、何としても、明け渡さぬ。――その真田昌幸は、まぎれもなき貴家の臣である。真田を追い払って、即座に、沼田城をわれに渡されたい)

と、いうのである。