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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
二人は、わずかな縁故をたどって、まず浅野弥兵衛長吉のやしきを訪ね、弥兵衛に連れられて、大坂城内で、秀吉に会った。
秀吉が折ふし、四国平定の帰結を得て、ひと息ついていたところだった。そこへ、信州の一地方から、思いもかけぬ真田家の申し入れである。事は小さいが、逸すべからざる快報と彼は聞いた。
「ふム、ふうむ。……いや、よくわかった」
秀吉の肚はすぐ決まっていた。けれど、諾とも否とも答えない。ただ使者の真田弁次郎の容子ばかり見まもっていた。殊に、弁次郎幸村が、秀吉の意をうごかそうとして、若い情熱を耳朶に染めながら、怯みなく自己の意見と、懇請とを述べるあいだ、秀吉は、聞き惚れるように、眼をほそめた。
「真田どのの次男と申すことだが、お汝は、ことし何歳になるか」
秀吉の問いに、弁次郎が、十七歳になりますと答えると、かさねて、
「兄は?」
と、訊かれた。
「はい、兄の昌輝は、天正三年、長篠の合戦に、武田勝頼様について出陣し、徳川勢に当って戦死いたしました」
「無念とおもうであろうな」
「私がまだ七ツの頃です。何も覚えておりません」
「でも、骨肉の情として、徳川家にたいし、どこかに、恨みは残るであろう」