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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

重政には、骨がある」

「といっても、蟹江にある御老母をどうするおつもりか」

「……や、やかましいッ」

と、重政は、涙をふって、泣き顔を、ひっつらせた。

「き、貴さま如き、義も恩も知らぬ人間から、武門の難に立った母と子の心がけを、講釈してもらおうとは思わん。人非人めが、恥を知れッ」

それきり顔をひっこめてしまった。

すでに、山口重政の所へは、きのう、萱生にある主人の佐久間甚九郎から、

(海上に、おびただしい炊煙や兵船の影が見える。思うに、沿海をうかがう敵の水軍かも知れぬ。油断すな)

という密報が来ていたし、蟹江の様子も変だったので、充分、覚悟していたところだった。

午すぎ、また、川向うの堤のうえに、千賀新左衛門という蟹江の武者が来て、重政を呼び出し、吉田小助と同じように、老母の生命や、報酬の利をもって、かれを説いた。

「また来たか。うるさい、虫けらども」

重政は、鉄砲でそれに答えた。千賀新左は、馬を撃たれたため、徒歩で逃げ帰った。

こういう中で、重政にとり、うれしいこともあった。

それは、蟹江の城にいた奥山次右衛門という、かれの同僚で、次右衛門は、主人から預かっている蟹江城が敵に売られ、滝川勢が入って来たので、夜中ひそかに、妻子をつれて、この大野城へ、逃げ走って来たのである。