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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

ひとり兵事上の改革ばかりでなく、信玄の頭脳の最もすぐれたものという定評のある通貨制度、交易法、土木などにいたるまで、家康は、この機会に、その特長を容れて、習慣的な古い制度を、思いきって、革新した。

「伯耆は、よい置き土産を、家康に与えて去った。――かかることでもなければ、軍制、経済の改革など、さて、容易に古きを捨てることはできぬ、数正が、みずから数正を、わが家から抛ったのも、いわば古きを捨ててくれた一つのようなものだ」

何につけても、家康のことばの裏には、禍いを転じて福としようとする心理の努力でないものはなかった。その証拠には、こうもいった。

「どんなことにも、まる損はないものじゃぞよ。……思うてもみい、どんな災難、凶事に会った場合といえども、まる損というものはない。決してない」

強引・強拒

北畠信雄が、岡崎城を訪ねて、家康に、用あり気な顔を見せたのは、石川数正出奔の十数日後――十一月の末だった。

「どこか、お体でも、おすぐれなさいませぬか」

信雄は、家康の血色を見て、案ずるように、まずいった。

去る者は追わず――として、家康はもう対石川問題は、努めて感情から洗っていた。