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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

そして人はみな、日々、うす氷を踏むような思いの中に、はらはら生活しているんでしょうな」

「こんど、関白になられた、大坂城のあるじに訊いてみられたらどうじゃ」

「……いや。実はです」

と、信雄は急に、いとぐちを得たように、薄手な容貌が持つ気の弱いひとみに活気を見せた。

「ちか頃、雑用をおびて、大坂表へ出た折、関白どのとお会いして、いろいろ話が出たのです。……そのせつ、殿下が申さるるには、世上では、つまらぬことの端にも、すぐ、小牧以上の大戦が、すぐにも起るようにいい、口に泰平を祈りながら、流言浮説をよろこんで、偶然な出来事も、みな戦争へこじつけて考える癖があるが、いったい、自分と徳川どのとが、どうして、戦いを決せねばならぬ理由があるのか――秀吉にはとんと分らぬ、と沁々、御述懐なすっておられた」

座には、家康のほか、榊原康政もいた、本多忠次もいた、そのほか三、四の重臣も居あわせた。

かれらは、主人の容子とは、まったくべつな態度をもって、信雄を、蔑みの眼で、見つめていた。信雄が、ひと口ごとに、太閤どのといったり、殿下などと敬称したりするのを、いかにも、耳づらそうに――不快にたえない顔していた。