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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

と、なだめすかして、室の中へ、連れ上げていたところだった。

――その頃。

秀吉はいったい何処へ行っていたかというと、実は、城外玉造町の、狩野永徳の佗びたる住居を、訪れていたのである。

従者もたった二人しか連れていない。それに、少女の摩耶を連れ、西の丸から広い外廓へ出、まだ工事中の玉造口の城門を出て、ぶらりと、ここへ来てしまったものなのだ。

――が、彼のこんな一個人としての軽々しい訪問は、この古堂の佗び住居では、きょう初めてではないらしい。

「おや。また、おいで遊ばした……」

というような迎え方が、画師永徳にも、弟子の山楽にも、召使の婆やの様子にも、ありあり見えた。

秀吉は、ずかずか通って、

「於通は、相かわらず、画の修業に、精出しておるかの」

云いながら、奥のせまい、画室をのぞいた。

「いらっしゃいませ」

と、於通は、かれの立ち姿を、ふすま際に迎えて、手をつかえ、

「一所懸命に、お教えを、いただいておりまする」

と、答えた。

画室は、毛せんの上に、無数の絵の具皿だの、筆だの、硯だの、反古などを、一面に散らかしていた。あわてて、彼女が片づけようとしたのも、間に合わない程にである。