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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
かくて、かれの身辺には今、三人の可憐なる未開花がつぼみをかたく運命を托していた。於通も、そのひとりだし、茶々も、摩耶もそうだった。
絵師永徳にあずけた於通を、ふいに、軽々と、見に行ったのも、これで三度か四度目だった。絵を習っている。やっているな。――それだけで、その時の彼の気もちはすむのである。さっさと、城中に帰り、もう宵の灯となった。西の丸の女たちの群れのなかに、彼の姿は、他愛のない、一個、情痴の人間として、在った。
「でんか。……ちょっと、お耳にまで達しておきますが」
座に、居あわせた、曾呂利新左が、錠口からの取次を、囁いた。
聞くと、秀吉の眼が、きっとなった。こんな眼を、あたりの女性たちは、めったに見ないので、ふと、笑いさざめきを止めた。
「なに。滝川と長益が、三河から戻ってきたというか。……いや、すぐ聴こう。ここでよい。すぐ連れて来い」
滝川雄利と、織田長益のふたりは、けんらん、お花畑のごとき女性群の中の秀吉を見て、次の間に、平伏した。
「や。御苦労だった。――今、帰ったのか」
秀吉は、自分から立って、次の間の二人の前へ来て坐った。
華やかな燭や、とりどりな女性たちの色彩に、隣りしているせいか、使者二人の顔は、一見して、余りにも、蒼白な悲痛を剥き出しているように見えた。