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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

11 第十一分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页

青空文庫

へ働かせるようになってしまった。

於通は、もとより不平である。かの女の理想は、台所働きなどにはない。おそらく、秀吉へ、不平を訴えたものだろう。秀吉は秀吉で、かの女の将来と境遇に、ひとりおもわくの構想がある。――一時、永徳の女弟子として預けておこう。そう考えて、向けて来たにちがいはない。

「――ではべつに、絵師になりたい志望でもないわけかの」

狩野永徳は、於通の答えに、唖然としたあとで、やがて訊ねた。

「ええ、絵師が望みではございませぬ。――けれど、お城づとめでも、お台所向きなどは、なお、私は好みません」

「しかし、初めから、二の丸や北の丸へ上がるわけには、ゆきますまい」

「でも、秀吉様は仰っしゃいました。そもじの好むように、暮させてやる。そして歌も習え、絵も習え、学問もやれ。むかしにも紫式部や清少納言などという才媛があった。いまの世からも、女性の偉いものが出て欲しい。そもじは天正の紫式部になれ、今の世の清少納言になってみい。そう励ましてくださいました」

「ほ。……筑前様がか?」

「はい。……だのに、秀吉様は、私を、御本丸の大台所へまわし、お膳番の下で働くようになさいましたから、それではお約束がちがうと、申し立てましたら、よほど何か、お困りとみえて、しばらく、絵師の永徳の所におれとの仰せに、伺ったわけでございます」