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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
かれの重臣の一名は、心からそれを信じて、献言していた。それは家中全般の底流にある不安なささやきとも、戦略的見地からも、一致する意見にはちがいない。
果たせるかな、秀吉の大軍は、背面から、忽然と、信雄の予感を裏書してきた。かれは、急を、家康へ報じて、助けを叫ぶしか、策を知らない。
清洲には、酒井忠次が留守していた。忠次は、信雄からの急報をうけると、すぐ家康へ伝令し、家康は即日、全力をあげて、清洲まで出た。
そしてすぐ、酒井忠次や、そのほかの部将を、
「桑名へ、援けにゆけ」
と、急がせた。
桑名は、長島の喉首である。信雄もここへ兵を出して、縄生村に本営をおいた秀吉と対陣していた。
縄生は、桑名の西南一里ほどな地点、町屋川に沿う一村落だが、木曾川、揖斐川などの海口にも近く、水陸両軍をあわせて、信雄の根拠地をおびやかすには、絶好な指揮地にちがいない。
晩秋――
この辺りに多い蘆荻は、数万の兵馬も、ひそやかに包んで、ただ兵站部のけむりのみが、朝夕、おびただしく水郷を煙らせた。
まだ、何の戦令も出ない。
のん気な兵は、時々、ハゼ釣りなどやっていた。そんな時、はからずも、軽装した秀吉が、馬で陣見廻りなどに来ると、あわてて雑兵たちは釣竿を捨てたが、秀吉は気づいても、ただニヤニヤと見て通った。