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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
11 第十一分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 186,659 字 · 372 页
次の日の、矢田川原における信雄との会見は、まさにかれのそうした深慮遠謀の事実化なのだ。
秀吉は、早朝に起き、
「天気も、よいあんばい」
と、まず空を見た。
ゆうべの模様では、晩秋の風をもった雲行きが怪しまれたので、万一、風雨にでもなって、信雄の方から、延期だの、場所換えだのをいって来られると、徳川方に気どられる惧れもあり、甚だまずいがと、案じて寝た今朝だったが――吹き晴れて、この頃にもない青空が見られたので秀吉は、さい先よしと、みずからを祝福しながら、縄生の陣を、馬で出た。
供は、えらばれた極く少数の旗本小姓に、先に、使者の役をした富田、津田の両名しか連れなかった。
けれど、やがて町屋川を越えると、そこここの蘆荻や民家のかげに、昨夜のうちに配置された味方の将士が、かくれていた。――秀吉は、見て見ぬ顔で、馬上、談笑をかわしながら、やがて桑名の西郊にちかい矢田川の岸まで来て、
「信雄様のお越しあるまで、この辺でお待ち申しあげようか」
と、床几にひかえて、あたりの風光をながめていた。
ゆうべまでは、信雄のことを、口ぐせ通り三介殿三介殿とよんでいたが、まだ姿を見ぬうちから、その人のよび方にまで、細かい気をつかっていた。