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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

佐吉はちょっと思い出せぬような顔してみせた。待っていましたという風に答えては、佐吉め、嗅ぎつけておるナと、かえってこの主人にはおもしろくない気持が後日にやってくるにちがいない。ぼやっとして見せるに限ると、考えたからである。

その証拠には今、茶々は? と、ぎごちなく訊ねたとたんに、主人は、家臣にたいする主人顔もくずして、何ともつかぬごま化し顔に、羞恥らいみたいな色をふくみ、ひどくテレてお在すではないか。

佐吉は、敏くもそう見てとり、心のうちでは、おかしくてならなかった。

三人の姫たちとは、いうまでもなく、おととし北ノ庄落城のみぎり、城将柴田勝家と夫人のお市の方が、幼き子らには罪なきものをと、その養育を、秀吉に託してきたあのときの可憐な息女三名のことである。

その後、秀吉は、わが子のように、この姫たちを家に養い、大坂城普請のときも、特に、彼女たちのために明るい一小曲輪を設計させ、黄金の籠に名鳥を飼っているように、折々そこをのぞいては、共によろこんでいたのだった。

が、この名鳥とこの飼主のあいだには、将来、それだけの関係ではすまないものが約束されそうなことは、たれにも予測できることだった。