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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

とりわけ三人の姫のうちでも、長女の茶々の君は、年ばえもちょうどことし妙齢十八、世にはあるまじき麗人よと、そろそろ城内のうわさにもなりかけている。北ノ庄の業火が世に生みのこした名花だという人もあり、織田どのの由来美人系の血をひかれて、母君のお市の御方にも増してお美しいとほめ称える者もある。何しても、大坂新城の竣工と、茶々の君のめっきり人目立ってきたこととが、何か、時を同じゅうして、羽柴家の家運の季節を象徴しているようでもあった。

十八の茶々の君のそうした佳麗さが、秀吉の眼をひかないわけはない。この道にかけても、六韜の奥の手、三略の妙に通じている主人である。或いは、そろそろ暮夜ひそかなる花盗人を真似て、一度や二度ぐらいは、茶々の君に声をたてられて、逃げ帰っておられるやもしれない。――そんな匂いを石田佐吉は前からうすうす嗅いでいたところである。おかしさをつつもうとするがつつみ得ない。

「佐吉。なにを笑う」

秀吉は見とがめた。が、自分も少し、おかしげである。やはり佐吉の気持はもう見ていた。

「いや、何という儀でもございませぬが、軍務にまぎれ、このたびは、お三方の御起居までは、ついお伺いもせで戻りましたので」