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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

伊勢方面からの戦況報告の使いだけでも、夕刻までに、三回も着いた。

その書状を見、使いを引いて、直接、情勢を聞き、またことづてを託し、返書をかかせたりしながら、夕飯はたべた。夕飯はほかの侍臣も交えて大書院でたべた。

大書院の一隅に、屏風がある。一双全面にわたり、日本全国の地図が金泥のうえに描かれてあった。秀吉は、それへ眼をやるとふと、

「越後へやった使いは、まだ何の沙汰もないか。――上杉景勝へやった使者どもじゃよ」

と、あたりへ訊ねた。

「まだ、日数にいたしましても」

と、指を繰って、遠国の不便を語ると、秀吉も指を繰って、

「そうか。きょうは十三日だったな」

と、あらためて日を呟いた。

木曾の木曾義昌へも、使いが出してある。常陸の佐竹義重へも数度の密使が通っていた。そのほか地図屏風に見える細長い国の端から端まで、彼の外交網はゆきとどいていた。

秀吉は由来、戦は最後の手段なりとしていた。外交こそ戦であるという信条なのである。故主信長の弔い合戦という名分をかかげ、山崎の一戦に光秀を討ったとき以外はみなそうだった。

だが彼のは、外交のための外交ではない。また、外交あっての軍力でもない。