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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

「おお、兵庫か。――先鋒へ報らせはとどいたか」

六坊山からすぐ取って返して来た使番の加賀見兵庫は、主人の鞍わきへ、馬をよせ、歩をそろえつつ、復命した。

「そうか。そうか」

と、武蔵守は、耳だけで聞きとりながら、手綱を打たせて、

「して、六坊山の御人数は」

「すぐ隊伍を立て直され、生牛ヶ原、金萩ヶ原と、あとに続いて参られまする」

「さらば。第三隊の堀久太郎どのへ、われらは、かくかくに軍勢をまとめ、家康のふじヶ根山へ立ち向えば、堀どのにも、引っ返して、助勢あれと、申して来い」

「はっ。ごめん――」

と、前を駆け抜けて、軍より先へ出たとき、池田隊の使番二騎も、勝入から同じむねをうけて、堀隊の所在へいそいだ。

だが、この要求が、堀秀政の容れるところとならず、使番たちが激怒して帰ったことは、さきに記した通りである。

「秀政の云い分には……」

と、使番の復命を、森武蔵守がうけとったのは、すでに彼の隊が、狭隘な山あいの湿地をふんで、岐阜ヶ嶽の上へ、陣場を求めようとして登りかけていた時だった。

金扇の馬じるし、また無数の旗さしもの。その敵は目の前の高地に近々とあった。武蔵守は、他に何の感情もうごかしてはいられなかった。