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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

岐阜ヶ嶽――これへ三千の兵を上げて、森武蔵守長可は、ひとまず後続軍の、池田勝入が到着するのを、

「待とう」

と、きめた。

が、大敵は、わずかな低地をへだてて、目前の山に、布陣、しずかにこっちを見ている。

武蔵守も、老臣の林道休や伊木清左衛門などとはかって、たちどころに備えを終り、将座をえらんで、四方を眺めた。

複雑な地相である。

ここに立てば遠く東春日井平野の一端を入口として、長久手の名のごとく、山と山とに狭められたり、小平野を抱いたり、屈曲したりしながら、やがて南のはるか、岡崎へつながる三河間道が、望まれる。

だが、視野の半ば以上は、山である。嶮峻、高岳ではないが、丘とよび、小山とよび、低山という程度の起伏の波が、春を脱いで、ようやく、木々にほの紅い芽をもっていた。

「見えた」

「おっ。着いた」

兵のうえを、歓呼に似たどよめきが走る。武蔵守は、勝入の顔を心にえがいた。

かれも、それの望まれる位置へ足をうつした。金萩ヶ原から山道をふみ、自分がこれへ来た通りの道を、池田軍六千の旗、馬じるし、武器の穂さきも、せいせいと進んでくる。

その幾だん、幾組にもわかれた縦隊は、やがて、こうべ狭間で、歩をとめ、すぐ前の岐阜ヶ嶽へむかって、