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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

さらば、時を移さず、すぐ召使たちへ、暇を申しわたしたがよい」

動ずる色もない老母である。

甚内はすぐ邸内の召使をのこらず庭へ呼び集めた。

つい昨日まで、小姓組二百五十石の小身であったのが、賤ヶ嶽の後、七本槍に加えられ、功によって、三千石の知行と一邸の主となったものの、まだ家の子郎党も少なく、馬の数さえ多くはいない。――が、集まった召使たちは、その脇坂甚内が、まだ微禄な時代から、水を担い、薪を割って、貧苦の中を仕え通して来た者が、大部分だった。彼らはすでに今朝から主人の苦境を知っていた。みなわがことのように、憂いを共にし、固唾をのんで、主人の面をみまもるのであった。

甚内は口を開いた。

「多年、至らぬわしを主人と立て忠実に仕えてくれたお前方を、にわかに離すのは忍びぬことだが、仔細あって、きょう限り暇を出す。――各※(二の字点、1-2-22)、故郷へ帰って、余生、倖せに送れよ。また、わが物は何なりと、欲しくば、仲よく分け合うて持ち去るがよい」

「…………」

忽ち、すすり泣きが流れた。慟哭する者もあった。

と、ひとりの老僕が、一同の中から叫んだ。

「旦那様。