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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

10 第十分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 176,911 字 · 353 页

青空文庫

お情けないおことばです。深いわけは存じませぬが、旦那様が、お肚をきめてござらっしゃることは、わしらといえ、お台所の女どもまで、みなお察し申しておりまする。なぜ、共に覚悟をしろと仰っしゃっては下さいませぬか」

「ありがとう、ありがとう」

甚内は、何度も頷きつつ、その面から涙をはふり落して、

「――では申すが、さても愚かなこの主人は、御主君筑前様に対して、腹を切っても償い得ぬ大しくじりをしてしもうたのじゃ。そこで、死ぬまでも、せめて命のある前に、お詫びのあかしも立て、汚名の一端もすすがずば、死にきれぬと」

「わかっておりますだ。おこころもちは」

「まあ、聴け」

と、一同の嗚咽を抑えて、

「――よって今より、滝川三郎兵衛の居城、伊賀上野へ押し襲せる所存。しかし、さむらいどもと事ちがい、お前方、老いたる者や、常々拙者の母の世話や、炊ぎのことまでしていてくれた女ども、わらべなどは、連れ参るわけにはゆかず、また、邸へのこしておいても、脇坂の家も、きょう限り絶えるのじゃ。いや、みずから断絶を示して最後の家の門を立つのじゃ。……聞きわけてくれ、皆よ、どうか泣かずに、別れてくれい」