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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

(半日閑話。福島県耶麻郡大塩村)

ところが安房の方では神余の畑中という部落に、川の流れから塩の井の湧くところがあって、今でもその由来を伝えています。その昔金丸氏の家臣杉浦吉之丞の後家美和女、施しを好み心掛けのやさしい婦人でありました。大同三年の十一月二十四日に、一人の旅僧が来て食を求めたので、ちょうどこしらえてあった小豆粥を与えると、その粥には塩気がないから、旅僧は不審に思いました。うちが貧乏で塩を買うことが出来ぬというのを聴いて、それはお気の毒だと川の岸に下りて、手に持つ錫杖を突きさして暫く祈念し、やがてそれを抜くと、その穴から水が迸って、女の顔のところまで飛び上りました。嘗めて見るとそれが真塩であり、その僧は弘法大師であったと、古い記録にも書いてあるそうです。(安房志。千葉県安房郡豊房村神余)

いくら記録には書いてあっても、これが歴史でないことは誰にでもわかります。弘法の旅行をしそうな大同三年頃には、まだ金丸家も杉浦氏もなかったのであります。それよりも皆さんにお話したいことは、十一月二十四日の前の晩は、今でも関東地方の村々でお大師講といって、小豆の粥を煮てお祭りをする日だということであります。