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にほんのでんせつ

日本の伝説

柳田 国男

「日本神話伝説集」日本児童文庫、アルス、1929(昭和4)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 104,931 字 · 207 页

青空文庫

天台宗のお寺などでは、この日がちょうど天台智者大師の忌日に当るために、そのつもりで大師講を営んでいますが、他の多くの田舎では、これも弘法大師だと思っているのであります。智者大師はその名を智といって、今から千三百四十年ほど前に亡くなった支那の高僧で、生きているうちには一度も日本へは来たことのなかった人であります。また弘法大師の方はこの十一月二十三日の晩と、少しも関係がなかった人でありますが、どこの村でもこの一夜に限って、大師様が必ず家から家を巡ってあるかれると信じて、このお祭りをしていたのであります。

旧暦では十一月末の頃は、もうかなり寒くなります。信州や越後ではそろそろ雪が降りますが、この二十三日の晩はたとえ少しでも必ず降るものだといって、それをでんぼ隠しの雪といいます。そうしてこれにもやはりお婆さんの話がついておりました。信州などの方言では、でんぼとは足の指なしのことであります。昔信心深くて貧乏な老女が、何かお大師様に差し上げたい一心から、人の畠にはいって芋や大根を盗んで来た。その婆さんがでんぼであって、足跡を残せば誰にでも見つかるので、あんまりかわいそうだといって、大師が雪を降らせて隠して下さった。