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かにのかい
日本の怪談(二)
田中 貢太郎
田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页
何時かも己の里に紛擾が起ったので、それへ往っていて夜になって帰って来ると、膳前の酒を一人で飲んでいたお爺さんが、
「どちらへお出でになっておりました」
と、嘲るように云った。老婆が黙っていると、
「云えなかろう、云えないて、俺の家へ嫁入って来たからには、俺の家の者じゃ、いくら身内に何があろうとも、一応俺の許しを受けてから往くのが順当じゃ、黙って往くと云う法はない」
と、お爺さんは双手を一ぱいに張って見せる。
「花嫁で耻かしいから、云わざったわよ」
と、老婆が嘲り返す。お爺さんは憤って、膳の上の茶碗を投げつけて、
「汝のような奴は、もう許さん、今日限り離縁する」
老婆はお爺さんのことを思いだし思いだししていた。そして、今度便所に往った時に見ると、三つ星がもう裏の藪の上へ傾いていた。で、老婆は寝ることにして、戸締をし壁厨から蒲団を出しているうちに、また餅のことを思いだしたが、腹が一ぱいで何も喫ってみる気がしない。
(明日の朝にしよう、もう腐るようなことはない)
老婆は仏壇の明りをしめして来て、行灯の灯をなおし、それから寝床に入ろうとすると、表の戸を叩く音がした。