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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

「頼もう、頼もう」

それは詞の使い方からして、近隣の人の声ではなかった。お上の御用を扱うている村役人ではないかと思った。老婆は行灯を提げて往った。

「頼もう、頼もう」

「はい、はい」

老婆は表の入口の端になった雨戸を一枚開けた。暗い中にがさがさと物音をさして、行灯の灯のしょぼしょぼした光の中へ入って来たものがあった。それは青い錦の道服を着た者と、赤い錦の道服を着た者であった。二個の手にぴかぴか光る鉾があった。老婆はびっくりしてその顔を見た。青い道服を着た方の顔は、絵にあるような青い鬼で、赤い道服を着た方の顔は、赤い鬼であった。老婆はつくばってしまった。

「怖がることはない、俺達は此処の爺さんに頼まれて来た者じゃ」

と、赤鬼が云った。

「此処では話ができん、内へ入って話そう」

と、青鬼が云った。青鬼はもう隻足を敷居に踏みかけていた。

老婆はふらふらと起ち昇って、顫う手に行灯を持った。青鬼と赤鬼の二疋は、胴を屈めるようにしてあがった。老婆は鬼に近寄られないようにと背後向きに引きさがった。そして、仏壇のある室まで往くと、老婆はべたりと坐ってしまった。二疋の鬼もそのまま其処へ衝立った。