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かにのかい

日本の怪談(二)

田中 貢太郎

田中貢太郎『日本の怪談(二)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:蟹の怪、花の咲く比、不動像の行方、蛇怨、鮭の祟、妖怪記、鍛冶の母、鷲、尼になった老婆、幻術、忘恩、蠅供養、這って来る紐、放生津物語、地獄の使、法衣、餅を喫う、立山の亡者宿、山の怪、山姑の怪。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 80,664 字 · 171 页

青空文庫

(今日は、ろくなことはあるまい、帰ろう、帰ろう)

半兵衛は遂に帰ることに定めた。彼は舌打ちしながら初めにあがって来た路をおりて、谷の下の方へ帰りかけた。栂の木が生えて微暗い処があった。半兵衛は其処へ往くと手に持っていた鉄砲を肩に掛けた。女蘿が女の髪のようにさがった大きな栂の木の陰から、顋鬚の真白な老僧がちょこちょこと出て来て半兵衛の前に立ち塞がって両手を拡げた。

「この妖怪奴」

半兵衛は腰にさしていた山刀を抜いて、老僧の真向から切りおろした。と、二つになって倒れる筈の老僧が二人になって並んで手を拡げた。剛胆な半兵衛もこれには少し驚かされた。

「まだそんなことをしやがるか」

半兵衛はまた右側の妖僧の真向へ切りつけ、次の刀で左側の僧の胴をすくい切りに切った。

「これでどうじゃ」

妖僧は四人になって手を拡げた。

「まだそんなことをするか」

半兵衛はもう見さかいなしに山刀で切って廻った。妖僧は十四五人になった。

「くそっ」

半兵衛は滅多切りに切って廻った。そして、切りながら見ると妖僧の体は切るに従って多くなって来た。半兵衛は此処にこうしていてはかなわないと思ったので、刀を揮り揮り一方を切り開いて走った。