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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

尾花川

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页

青空文庫

「それは久しぶりだな、どのくらいある」

「ほんの四五十もございますかね」

「みんな貰っておこう」妻のほうへ聞えるようにかれはそう云った、「……それから弥五、おまえ正月の鴨を持って来なかったようだがどうしたのだ」

「へえ、それはその、なんです」

老人は困ったような顔つきで、もじもじと厨口のほうを見やった。太宰はやっぱりそうかという気持で思わず声が高くなった。

「約束したら持って来なければだめではないか、もう手にはいるあてはないのか」

「あての無いこともございませんが、なにしろもう数が少のうございますでね」

「四五日うちに客があるからなんとか心配して呉れ、骨折り賃はだすから、いいか」

そう云って太宰は自分の居間へ戻った。

この屋敷には珍らしく客の無い日だった。一人だけ鹿島金之助という宇都宮藩の青年がいるけれど、これは四十日ほどまえからの滞在でかくべつ接待の必要もない、こういうときこそゆっくり本も読もうと思い、久方ぶりに書庫から二三持ちだして来たのだが、さて机に向かってみると気持のおちつきが悪かった。……厨でことわったひがいをわざと呼び止めて買った自分の態度も、むろん不愉快であるが、このひと月あまりのうちにどことなく変ってきた妻の挙措が、あれこれと新らしく思い返されて心が重くなるのだった。