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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
尾花川
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页
かれの本姓は戸田氏である、近江のくに膳所藩の老臣戸田五左衛門の五男に生れ、三十歳のとき園城寺家の有司池田都維那の家に養嗣子としてはいった。妻の幸子はそのとき三十二歳だった、かの女も彦根藩の医師飯島三太夫のむすめで、幼少のとき池田家の養女となり太宰を婿に迎えたのである。……幸子は肥りじしのゆったりとしたからだつきで、口数の少ない、はきはきとしたなかに温かい包容力をもった婦人だった。年齢からいっても気性からいっても、老臣の五男に育った太宰には初めから姉という感じで、幸子がどうつとめても、否つとめればつとめるほど、かれは言葉ではあらわしようのない一種の圧迫を受けるばかりだった。池田都維那は間もなく園城寺家を致仕し、大津尾花川の琵琶湖に面した土地に屋敷を建て、多くの田地山林を買って隠棲したが、いくばくもなく世を去ったので、その遺産はすべて太宰の継ぐところとなった。かれは養父の死後ほどなく姓を河瀬と更え、聖護院宮に仕えてその有司となったけれど、世上のありさまはその頃からにわかに変貌しはじめ、頻々たる異国船の渡来とともに、国の隅々からわきたつ「尊王攘夷」の声は、かれをも宮家の一有司たる位置から奮起させずにはおかなくなっていた。