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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
尾花川
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页
酒も少しまわったかと思うと黙って食事にしてしまう、「まだ飯には早い」と云えば、「あいにくもう御酒がきれまして」と答えはきまっていた。……この数年は出費の嵩む生活がつづいた、けれども亡父の遺して呉れた資産に比べればたかの知れたものだし、尊王倒幕の事のためには、その最後の一銭まで抛つ覚悟ができていた、むろん妻もそれは承知の筈だったのに、どうしてにわかにそう変ったのか。客の接待だけではない、家常茶飯すべてのことが眼立ってつましくなった、まえから幸子は召使たちといっしょに食事をする習わしだったが、近頃の菜はおもに焼き味噌と香の物だという、……つましいというよりも寧ろ吝嗇にちかい変り方である、太宰にはそういう妻の気持がまったくわからなくなっていた。
机に向かって書物を披いたまま惘然ともの思いに耽っていた太宰は、「お客来でございます」という妻の声でわれに返った、「泉さまがお二人ほど御同伴でおみえになりました」かれは「よし」と頷いたがすぐに妻を呼びとめ、「先刻のひがいで酒の支度をしてまいれ」そう云って立ちあがった。
客は泉仙介という越後のくに村松藩の志士で、かれとは最も親しく往来しているひとりだった。