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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

尾花川

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页

青空文庫

「久濶のみやげに同志をひきあわせよう」仙介は日焦けのした顔をふり向け、太宰が坐るのを待ちかねたように云った、「こちらは讃岐の井上文郁、それに長谷川秀之進だ」

「長谷川というと」会釈が済んでから太宰はそう訊ねた、「長谷川宗右衛門どのとなにかご血縁にでもお当りですか」

「宗右衛門の伜です」秀之進となのる青年はふと眼を伏せるようにした、「……うちあけていうと庶子なのですが」

宗右衛門長谷川秀驥は高松藩でも指おりの勤皇家である、その秀驥の子と聞いて太宰はひじょうに興を唆られた。泉仙介はすぐ要談をはじめた、それは若狭の梅田源次郎らを中心に同志を糾合し、彦根城を奪取して倒幕の義兵をあげようというのである。高松藩でも長谷川秀驥が周旋しているし、できるなら水戸の藤田東湖を通じて斉昭侯まで動かす計画だという、……尊王攘夷の論がようやく攘夷倒幕という直論に向かってきた現在、誰かがなにごとかを事実において示さなければ道は打開しない、それは太宰にもよくわかった。けれどもいきなり彦根城奪取ということには賛同できなかった、それでながいことかなり烈しい議論が応酬されたが、やがて灯がはいり、酒肴がはこばれたので、主客はひとまず論諍をうち切ってくつろいだ。