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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
尾花川
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,678 字 · 17 页
「このまえ来たときにいたあの宇都宮の若者はどうしたかね」盃を手にしたとき泉仙介がふと思いだしたように云った、「……脱藩の罪で追われているとかいった、鹿島なにがしとかいう名だったと思うが」
「まだいるよ」太宰もそう云われて思いだした、「話にまぎれて忘れていた、呼んで諸君にもおひきあわせしよう」
すぐに離れのほうにいる鹿島金之助を呼びよせた。井上と長谷川は初対面なので互いに名乗りあい、賑やかに盃がまわりだした。……そうして半刻も経ったであろうか、長谷川秀之進がちょっと改まった調子で鹿島金之助に呼びかけた。
「あんたは宇都宮だそうだが、岡田真吾をご存じですか」
「ええ知っています」金之助は眩しそうな眼をした、「……よく議論をしました、あんな酒好きな男もないです、わたしも呑みますけれども、あの男は」
「いや酒なんかどっちでもいい」秀之進はきゅっと眉を寄せた、「それでは松本※太郎はどうです、やっぱり知己ですか」
「知己というほどではありませんが」
なんのためにそんなことを諄く訊くのかわからなかった。太宰はそれよりもさっきから酒がきれているので、またいつものように黙って食事にするつもりかと思い、もしそうなら今夜こそ云わなければならぬと少し苛々していた。