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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
勿論それは二人と並んでは通れないような路だった、溝板の上を拾い拾い、またはそうした下町に住んでいる人達の裏面の生活をのぞき/\、狭い勝手元で下女が釜や鍋を磨いていたり、たらいを抱えて粋な上さんが洗濯物をしていたりするところを掠めたり飛んだりして通って行く路だった。そしてそれがその横に通っている路をつらぬいて、また向うに入って行くのだった。少くともこの路地は風月堂の裏の少しこっちあたりから、ずっと長くあの白木屋の通りのところまで通じていた。私は江戸橋から人形町の方へと行く時には、いつもその路地を抜けて行くのを例としていた。
震災前でもあのあたりで昔のままの家屋を依然として保持しているというような家は少なかった。僅か五、六軒しかなかった。私はそこを歩く度にいつも人事の変遷の速かなのと時代の推移の急なのとを感ぜずにはいられなかった。一つの時代の推移と共に一つの異なった空気がかもされて段々その形やら感じやらが変って行った。人と共にあたりのさまが変って行った。あの通四丁目の北側に大きな時計台があって、その横町があの八重洲橋に向っていたなどとは、今日では誰も知っているものはあるまいと思う。