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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
またその橋をわたった向うのところは、中仙道を旅行するものの最初の出発地点になっていて、馬車屋があったり、馬車が何台となく並べられてあったりして、越後信濃上野あたりから来る人達は、皆そこを東京の内部の門戸として続々として入って来たものであったことをくり返した。私は今でもそこに夕暮の空気に包まれて、馬車や馬車の白い蔽や馬のだぶ/\した腹巻や大きな荷物を持った疲れた旅客などをはっきりと思い浮べることが出来た。私は交通の変化があたりの空気を全く変えて行ってしまうことを思わずにはいられなかった。眼鏡橋を渡ってすぐ入って行く講武所の細い通りなどは、その時分は賑かなものだったのである。そこに住んでいる人たちにも、またそこらを歩いている女たちにも、何処か昔の江戸らしい粋なところがあって、何となく濃かな空気の渦を巻いているようなところだったのである。私はそこを歩くことが好きだった。眼鏡橋をわたって、その細い通りをぬけて、大時計のあるひろ/″\とした広い道に出て来ることが好きだった。それはずっと後になってからだが、その広場に出ようとするところの左側にその時分評判だった紅葉の『伽羅枕』