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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
少くとも丸善の二階は、一番先きに新しい外国の思潮ののぞかれるところであった。それは今日考えれば、辺鄙な田舎の文学書生がその町の書店にならんでいる雑誌や本から東京の中央文壇をのぞいて見るよりももっと/\たよりないものであったに相違なかったけれども、それでも新しい外国を知るには、その門戸によるよりほか何うすることも出来なかったのであった。私はその棚を通してアルフォンス・ドオデエを知り、エミル・ゾラを知り、レオ・トルストイを知り、イプセンを知り、ビョルンソンを知った。パウル・ブルジェの短編集『ハステル・オフ・マン』を手にした時には、何ともいえない喜びで、何べんその本のクロオスをなでたか知れなかったことをくり返したい。ことに忘れられないのは、モウパッサンの例のアメリカ廉価版が何冊か届いて、それを電話で丸善から知らせて来たので、金のないのを無理に出版部に行ってたのんで工面してもらって、あたふたと急いでそこに出かけて行ったときのことであった。たしかそれは明治三十四年の六月の中旬だと思っているが、まだ日本ではその頃はモウパッサンという作家の何ういう作家であるかということを余り多く知っているものがないばかりではなく、その赤い黄いアメリカの廉価版も私が注文してはじめて日本に入って来たようなものだった。