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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
かの女は深川で生れて、下谷の三筋町で育って、それから赤坂へと行った話などを段々そこに持ち出した。やっぱり橋や建物の上に移り変りがあったと同じ様に、かの女の上にも艱難があり、全盛があり、恋があり、生活があったのだった。
『向うにいる中はダメでしたけども、此方に来てから水が性に合ったと見えて、たちまちここでおばァさんになって了ったんですね』などと話した。
『あなたは紅葉さんは知らんね』
『お目にかかったことはございません。何しろ、あの方はお八重姐さん時分ですから……。姉だと、きっと知っているかも知れませんけども……』
順序としてそこに鏡花君のことだの、後藤宙外君のことだの、最近になっては、長田幹彦君のことだの、水上瀧太郎君のことなどが出て来るのだった。もと蔵田屋といった料理屋の額を鴎外漁史が書いた話なども出て来た。ここの狭斜は大通の雑踏と混雑とにまぎれて、ちょっとは目に立たないような形になっているけれども、それでも中に入ると、昼間でも三味線の音がしたり、しょう洒な二階屋があったり、細い粋な露地があったりして、何となくそぞろ心をすかされるようなところだった。