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にほんばしふきん
日本橋附近
田山 花袋
「東京日日新聞」1927(昭和2)年4月19日〜5月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,383 字 · 37 页
たしかそこには司法省だの裁判所だのがあったのを覚えている。私はそこを通って、八重洲橋に行っていつもほっと呼吸をついた。なぜなら、そこはちょっと景色がよかったからである。古い土手の松が大きな根をそこにうねらせていたばかりではなく、淡い緑の枝が形よく濠の水にその影を落していたからである。私は時にはその土手にのぼって、その松の根に腰をかけて足の労れを休めながらあたりを眺めた。槇町で生れた私と同い年ぐらいである女はいった。『そうですか、あなたもあの土手にのぼったんですか……。あすこにはつくしやたんぽぽが出るので、子供がよく登って行ったもんですよ。私の総領の娘なんか、よくあそこに上ってしかられましたよ。あの時分には、あそこいらに行くのに、いつも山につみ草に行くっていって出かけたもんですよ。あそこの中は原が多かったですからね』
実際うつりかわりというものは不思議なものだ。川ならば瀬が常にかわるように都会の繁華の巴渦もまた絶えず変って行っているのである。そこに渦が巻いているかと思うと、いつの間にかそれが別な方へと行っている。かと思うと、また此方が繁華になるというような風である。